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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)234号 判決 1999年6月23日

東京都港区元赤坂1丁目2番7号

原告

鹿島建設株式会社

代表者代表取締役

梅田貞夫

大阪市中央区北浜東1番29号

原告

三晶株式会社

代表者代表取締役

溝手敦信

上記両名訴訟代理人弁理士

和田憲治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

高梨操

唐戸光雄

後藤千恵子

小林和男

主文

特許庁が、平成9年異議第71972号事件について、平成10年6月17日にした特許異議の申立てについての決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

主文と同旨

2  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告らは、平成3年11月22日、名称を「コンクリートの分離防止用混和剤」とする発明(以下「本件発明」という。)につき、特許出願をし(特願平3-334167号)、平成8年8月8日に特許(特許第2549589号)の設定登録を受けた。

訴外大成建設株式会社は、平成9年4月28日、本件発明につき、特許異議の申立てをした。

特許庁は、同異議の申立てを平成9年異議第71972号事件として審理した上、平成10年6月17日、「特許第2549589号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年7月6日、原告らに送達された。

(2)  原告らは、平成10年12月16日、本件明細書の特許請求の範囲の記載等を訂正する旨の訂正審判の請求をしたところ、特許庁は、同請求を平成10年審判第39085号事件として審理した上、平成11年4月12日、「特許第2549589号発明の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決(以下「訂正審決」という。)をし、その謄本は、同年5月12日、原告らに送達された。

2  訂正審決前の本件発明の特許請求の範囲の記載

1.菌体番号Alcaligenes ATCC31555の菌種によって産出する微生物醗酵多糖類からなるコンクリートの分離防止用混和剤。

2.菌体番号Alcaligenes ATCC31555の菌種によって産出する微生物醗酵多糖類と、他のコンクリート分離防止用の水溶性高分子とからなるコンクリートの分離防止用混和剤。

3  訂正審決後の本件発明の特許請求の範囲の記載

菌体番号Alcaligenes ATCC31555の菌種によって産出する一般式“化1”で示される微生物醗酵多糖類と、他のコンクリート分離防止用の水溶性高分子とからなる、スランプフロー値が50cm以上の高流動コンクリートの分離防止用混和剤。

〔化1〕

<省略>

(注、下線部分が訂正個所である。なお、訂正審決前の特許請求の範囲第2項は削除された。)。

4  本件決定の理由の要旨

本件決定は、本件発明の要旨を、前示のとおり、訂正審決前の特許請求の範囲請求項1~2の記載のとおりと認定した上、請求項1に記載された発明(以下「本件発明1」という。)が、特開昭63-315547号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)と同一であるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、請求項2に記載された発明(以下「本件発明2」という。)が、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定に違反し、したがって、本件発明に係る特許は、同法113条1項2号の規定により、取り消すべきものであるとした。

第3  当事者の主張の要点

1  原告ら

本件決定が、前示のとおり、本件発明の要旨を訂正審決前の特許請求の範囲の記載のとおりと認定した点は、訂正審決の確定により本件発明の特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたため、誤りに帰したこととなるので否認する。

本件決定が、上記のとおり、本件発明の要旨の認定を誤った瑕疵は、その結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、本件決定は違法として取り消されなければならない。

2  被告

本件決定における本件発明の要旨の認定が、訂正審決の確定により、誤りに帰したことは認める。

第4  当裁判所の判断

訂正審決の確定により、本件発明の特許請求の範囲が前示のとおり訂正されたこと、この訂正によって、本件決定が本件発明の要旨を訂正審決前の特許請求の範囲の記載のとおりと認定したことが、結果的に誤りとなったことは、当事者間に争いがない。

そうすると、本件決定が、この要旨認定を前提として、本件発明1について引用例発明と同一であると判断し、本件発明2について引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したことは、いずれも誤りであり、これらの点等について、訂正審決後の特許請求の範囲の記載に基づき、更に審理を尽くす必要があるから、本件決定は、取消しを免れない。

よって、原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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